地と水の絆 〜14





――――――――――――― 朝起きれば それは幸せな時間



強い父がいて

優しい母がいて








「じゃ、ちょっと行ってくるよ」
そういって席を立つ。
「ええ、気をつけて行ってきてくださいね、ヴィド」
「・・・??今日は仕事ないっていってなかったっけ?父さん」


この二人、ヴィドとリズの間に生まれた子、ピカードは自分の父に尋ねる。
まだ朝食を食べているところで口の中にまだ食べ物が入っている状態だ。


「今日は仕事じゃないよ、だからすぐ帰る
 だから・・・待っていなさいピカード」

そういってヴィドはピカードの頭に手をポン、とのせる。
それと同時にピカードの頬が赤くなる。
そして笑って、こういった。

「うん、わかった
 いってらっしゃい父さん」

そうしてヴィドは笑いながら扉を開け外へと出た。










向うはレムリアの王宮。
レムリアで比較的に高い位置にあるこの王宮にはとても気持ちのいい風が吹く。
それがヴィドの高く結んだ髪と赤い髪紐を揺らす。








王宮に入るとヴィドはすぐに王の間へ通された。
今日は付きが誰もいないらしい。
コンサバトもルンパの姿も見当たらない。



「王、失礼します」



ハイドロ王の前に進み出て、姿勢を低く構える。



「顔をあげろ、ヴィド
 今日は報告といっていたな?」
「はい」








ハイドロ王はは椅子から立ち上がりヴィドにもそうするように手招きする。
そして王の間にある窓へと進み出た。

「ヴィド、はじめに聞いておこう
 ・・・この頃ここらが酷く騒がしいが・・・何か起きているのか?」

その問いにヴィドが静かに答える。

「今日はそのことで報告に参りました
 …確かに近頃魔物が、それも多量のものがレムリアを徘徊するようになりました」
「・・・」
「私が見つけたものは処分してますが・・・」


その報告を聞いてハイドロは顎に手を乗せる。
「何か・・・動いているな」
「それは、間違いないと思います」

それからしばらく双頭とも黙る。

「でも王、安心してください」

ヴィドが会話を切り出す。

「私は、”マリナー”としての役目はやり通して見せますから」
「ッ・・・!!」


その言葉の後、ハイドロもヴィドも表情が暗くなる。









窓の方を向いていたハイドロが向き直しヴィドと向き合う。

「すまないな・・」

ハイドロはそういった。
ヴィドは、それを聞いてとても複雑そうな表情をした。

「何をいうんですか・・・ハイドロ王さま
 私は・・・・あなたの配下なのですよ?」
「辛い役目だろう・・・この楽園で何かを殺めることは・・・」

「そうですね・・・確かに酷く辛いことです
 でも私は、ここが、レムリアの地が好きです
 だから・・・・私はこの仕事に真っ当できるんですよ」


「私が・・・守れるものがあるのなら・・・守りたい、そう思うんですよ」


ヴィドがそういいきった後、ハイドロはゆっくり息を吐いた。
「そうか・・・」

「ヴィド、これからも警備を頼む」
「はい」

そうしてヴィドは王宮を後にした。








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「重い、な」






それが仕事だといっても
やはり何かを殺めることにためらいがある。
それが魔物だとしても、殺生というものが存在しないここでは・・・



時が止まったままの・・・楽園
毎日が変わらず、退屈な平和
その楽園で、魔物とはいえ何かを殺める・・・






――――――――――だからといって私は、この仕事を放棄するつもりは、ない






重苦しいことを考えていた時、頭のなかに自分の子供の姿が映る。
「・・・早く、帰ってやらないとな」
そう強引に思考を変えて、ヴィドは帰路へついた。












王宮から階段をいくつも降りて回りを見渡していると
ルンパの家に続く橋の上に見覚えのある姿を確認する。


そっと、その場へ近づく。
石橋の上にぺたん、と座り込んでいる・・・姿



「こんな所にいてどうした、ピカード」
「・・・!!」

大好きな父の声に反応してピカードは目線をそちらへ向ける。
ヴィド譲りの金の目が涙で、濡れていた。

「と・・・さん?」
その姿をみて、目線を合わせようと隣にしゃがみこむ。
そして手を伸ばしてピカードの頭をさすってやった。

「お前、また泣いているのか・・・」
「ぐすん・・・」
「こんな所にずっといるつもりか、帰るぞ」


そういってヴィドはピカードを背にのせた。














ピカードをおんぶして帰路の途中ヴィドは問いかけた。
「一体どうしたんだ?あんなところで泣いてて・・・」
やっと落ち着いてきたピカードがゆっくりと口を開く。







「魔物がね、いたんだ」
「!!?」







顔が一気に強張る。

もしかしてピカードは魔物に怪我させれたのではないか・・・

あるいは・・・奇妙なエナジーをかけられた、とか・・・・








立ち止まっておぶっているピカードの方を振り向く。


「ピカー・・・!!」
「でもボクがそれを追いかけたらね・・・が、崖から落ちちゃったんだよ・・・!!」














「・・・・は?」


好奇心旺盛。
子供なら普通だろう。



でも泣いている理由が・・・それ・・









安堵と呆れたのが混ざってため息を吐く。

「し、死んじゃったよ。きっとーーーーー!!!」

その場面を思い出したらしく、また泣き出した。


「・・・ピカード」
「・・・?」
「大丈夫だ」







――――――――――大丈夫じゃ、ないだろう?







「魔物はそこまで弱くない、生きているよ」







――――――――――生きていられては困る








ピカードに怪我がなかったことに安心感を覚えるものの
とうとう町の住民の前に姿を現すようになったというのならそれは深刻な話だ。








「ただいま」
家に入りまずピカードを降ろす。
ちょうどリズは庭で洗濯をしていたようで家の中にはいなかった。

「大丈夫か?」
「あ、うん・・・ありがとう父さん」

親子二人は食卓の椅子に腰掛けて向き合う。








だんだん、時間が経つにつれてピカードの様子がそわそわしてくる。



「・・・どうした」
「あ、あのね!」


うつむいていた顔をあげ父の姿をみる。


「今日は、ね?父さんに聞きたいことがあるんだ」
「・・・?」
「答えてくれる?」
「・・・ピカード、それは内容にもよるだろ?」
「んーん!もう答えてくれなきゃボクが嫌なの!!」





表情が必死だ。
そういうところがこいつはリズに似ている。

家族関係は別としてあまり表情を変えない自分の方に
似なくてよかったと少し安心する。






「・・・なんだ?」
ピカードの問いに答える気になったらしく聞き返してやる。

「・・・父さんの仕事、何なの?」
「・・・!」














金と金の目が互いを離さない。
ピカードもヴィドも真剣な表情をしている。

「私の・・・仕事か?」
「母さんに聞くと口ごもっちゃうから・・・だから父さんに聞く」
「・・・」

ヴィドは黙る。

「今日みたいに早く帰ってきたり、遅かったり・・・
 ある時は怪我してる時もある・・・
 ボクは・・・仕事だといっても父さんが危険な目に遭うの嫌なんだ」









――――――――――優しい子






――――――――――純粋な子









少し考える。
教えていいものなのか?

ピカードが・・・へんな好奇心をもつことが一番怖い。



さっきの魔物の件は呆れたが・・・
外見も中身もまだ子供かもしれないが・・・










――――――――――でもいつかは、話そうとおもっていたことだ










「そうだな、もう・・・教えてもいいだろう」
「本当!!?」

ピカードの目がキラキラを光る。



仮に今『自分はレムリア王宮のメイドアルバイトをしてる』とかいう嘘をいっても純に信じそうだ・・・。



「私は”マリナー”、ここレムリアを色んなものから守る仕事をしている」
「守る・・・何を??」
机に乗り出して顔をヴィドに近づける。





「私はハイドロさまに仕えるものだからね、まあ色々さ」








――――――――――お前がさっきみた魔物を本来殺めるのは私の仕事








・・・ということまではさすがに、いえない・・・


「で、もさ!色々っていっても・・・危険なものもあるでしょ?」
「まあ、危険なものもあるし悲しい仕事もあるよ」


ヴィドもピカードも目を離さない。

この子は・・わかっているのか、そうじゃないのか・・・





ピカードはそれを聞くと仕事を辞めて欲しい的な表情をする。
今にもそういいだしそうだ。







「でも私はレムリアが好きだから・・・この仕事に真っ当できるんだよ」
「!」



ヴィドの最後の言葉を聞いてピカードの表情が変わる。
そして少し経ってからこういった。

「ボクも、なれるかな?マリナー」









――――――――――レムリアが好きだって気持ちは、ボクも父さんと変わらない








――――――――――・・・いうと思った・・・










「やめとけ、お前みたいに優しい奴にこの仕事はできないよ」
「と、父さん優しいもん!!」

机をバンッ、と叩く。




あまりにも必死で、必死すぎて
一生懸命で・・・本当に可愛い息子に思う。

それが面白くて思わず笑みがこぼれる。




「ボクは本気だよっ父さん!!!」
「無理だ」




ピカードの言葉に即答。
当然ピカードは膨れる。
「むすーーー・・・」

そうしてヴィドが腕を伸ばし、頭をぽん、と叩く。
「いじけるなって、ピカード」
「〜・・・」


ピカードが乗り出していた机から身を引く。
椅子に座り直してまた父を見る。




そして・・・にこっ、と笑った。




「でもいいや!やっと仕事のこと、教えてくれたから!」
その表情につられてヴィドも薄っすらと笑みを浮かべる。



「そうやってずっと笑っていなさい、笑顔を守るのも・・・私の仕事だよ」










「あれ、あなた?いつお帰りになったんですか??」
リズが庭から帰ってきて食卓の前に現れる。
「結構前だよ、気づかなかったか?」
「す、すみません・・・」


リズがごめんなさい、といった表情をヴィドに向ける。










――――――――――・・・待て?





洗濯物を干すのに・・・・これだけの時間がかかるか?
自分が出かけてからすぐ、作業を始めていただろうに・・・






「リズ、お前またやったのか?」
「・・・!」




ヴィドの金の目を見ると到底嘘はつけないし、元からつく気もない。
リズはそのまま答えた。



「・・・はい、さっきすごく苦しくて・・・それで・・・」
「そうか」




元から心臓が弱い。
ピカードに受け継がれはしなかったみたいだが・・・レムリアにしては珍しい病持ちだ。




「リズ、休んでろ」
「あ、でももうお昼の時間ですから!用意しないと!!」

・・・といってパタパタと台所へ行こうとするリズをヴィドは腕で制した。
リズが自分よりも背の大きいヴィドを見つめる。




「今日は私とピカードで作るよ、できたら起こすから」
「でもでも・・・!あなたも仕事で疲れてるでしょうし・・・」

「母さん!ボク頑張るから、休んでてよ!!」

とびきりの笑顔でピカードがそういう。
そして椅子から飛び降りて自分の母の背を押して寝室へと連れて行った。


「じゃあ・・・頼んでもいい?」
「ああ」

そして男二人は昼食の準備に取り掛かった。




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長い一日がすぎた。

夜、ベッドの布団に包まりながら今日のことを省みる。

「父さんの仕事・・・すごいんだなあ・・・」









――――――――――レムリアを守る










そんな大きなもの、でも父さんはレムリアが好きだから
どんな仕事でも続けられるって言った。




「父さん・・・強いなあ・・・」




遊びで木刀を交えたことがある。
当然父は扱いなれているから強い。
そんなに大きな使命があったのなら尚更・・・・

だから憧れる。
強い父さんみたいになりたい。
守る力を得たい。

大好きな父さん
憧れの父さん

そして”マリナー”


自分の中で大きかった父の姿がもっと大きな存在になった。





「ボクも・・・あきらめない・・・ボクも・・・いつか・・・・」

そんなことを考えているうちに
ピカードはそのまま眠りについた。














そんな平穏な毎日。
時々父さんが怪我をしてくるけれど後は平和で、幸せな毎日。



そういうものこそ、一瞬にして壊されるもの。



レムリアに”悪夢”が訪れたのは
ピカードが”マリナー”を知ってから数日後のことだった。










→続く



はい、打つのが疲れました(笑)
やっとこさ過去編に入りました。
全2話で終わらせる予定が3話になりそうです;

その一話目がこれ。かなり長くなりました。
ピカードが兄さんに話している内容なんですがヴィド視点で進んでる当たり笑えます(笑)
父の記憶が消える前に町のみんなから聞いた話とかなんとか総合して話しているということで!!(何

このときのピカはかなりの子供です。
レムリアでは子供の姿は少しの間だけだけどその少しの間の話です。
頭も見た目も子供。
ついでにバビさまは既にウェイアードに帰っております。多分。

ヴィドさん。クールなんです、ホントは。
でも親ばかなんです(笑)あそこの夫婦は・・・

この過去編を進めているうちに・・・
うちのピカが何であんなにもオバカ?なのかをかけるといいなーと思ってます。
(世間知らずでへんな子)

お次は”悪夢”ですね・・・
さてさてどうなるんでしょうか・・・

 
2005・04・04